2014年8月24日日曜日

今流行のIce Bucket Challenge for ALSに思う

ほぼ3か月ぶりのブログ更新です。書こうかと思うテーマはたくさんあったのですが、書かないことの「楽」に慣れていました。反応を見る必要もなくネットから距離を置くとこんなにも楽なのかと思っていました。しかし、書かないのかと盛んに言われるのでまた書いてみようかと思い始めました。気負わずに行こうと思っています。

私が30歳の頃、胸痛を主訴に受診された50歳代の男性がいました。お豆腐屋さんです。手作りの豆腐で、早朝に冷水に手を入れて作業をします。この作業中に胸が痛むのです。早朝の冷水を扱う仕事で惹起される胸痛ですからいかにも冠攣縮性狭心症です。果たして冠動脈造影でもエルゴノビンによる誘発テストで右冠動脈が完全閉塞するような冠攣縮が誘発されました。

現在であればカルシウム拮抗剤とニトログリセリンを処方して冠動脈造影の翌日には退院ですが、30年ほど前の当時はもう少し入院中の検査もゆっくりというか丁寧でした。カルシウム拮抗剤の内服下であれば豆腐作りをしても発作が起きないかを見るために内服下に寒冷昇圧試験を行いました。氷水の中に手首を入れ、心電図をモニターしながらST変化を観察するのです。一度目の内服下の検査ではあっという間にSTは上昇しました。房室ブロックも起きそうになり危険な状態です。このためカルシウム拮抗剤を変更して再度、寒冷昇圧試験を行い、発作が誘発されないことを確認して退院としました。主訴である豆腐作り中の胸痛が解決できなければ意味がないのですから…

退院後の通院ではどの季節でも早朝の冷水作業でも胸痛が起きないと喜んでおられました。地元では美味しいと有名な豆腐屋さんでしたが、私自身は一度も口にしたことはありませんでした。そんなことが今でも何か悔やまれます。

この昔話を思い出したのはここのところ盛んにIce bucket challenge for ALSがニュースで流されたからです。ジョージ・W・ブッシュ前米国大統領の動画もニュースで見ましたが確か、彼は狭心症でステント植込みを受けていた筈です。狭心症の方の冷水暴露は危険です。短い人では1分足らずでSTが上昇し、房室ブロックや心室細動が惹起されることもあります。ですから私は私が診ている患者さんにはかき氷を食べたり冷水の作業を行うことのリスクを説明し注意するようにお話ししています。

チェーンメールのような指名の是非や、難病支援のキャンペーンをこのような形で展開することの是非はここでは言いませんが、狭心症の方や狭心症になってもおかしくない世代の氷水の暴露は危険です。そんな狭心症の方へのいたわりもなく指名を続ける人が言う難病への理解とはいったいなんだろうと思えてなりません。

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