2015年6月1日月曜日

私の目指す心房細動患者に対する抗凝固療法 Anticoagulation at minimum bleeding risk for Atrial Fibrillation(5)  添付文書記載の用法容量は全ての患者にとって正しいのか?

 ワーファリンによる良くコントロールされた抗凝固療法では、虚血性脳卒中/全身性塞栓症抑制効果は、Dabigatranの高容量よりも優れると書きました。しかし、脳出血の発症に関してはどんなにTTRを高めても減少しないので、Anticoagulation at minimum bleeding riskということを目標にするのであればワーファリンは勝者にはなり得ないと私なりに結論しました。

虚血性脳卒中の減少を第一のゴールとするのか、ある程度の虚血性脳卒中が残ったとしても頭蓋内出血を最小にするのをゴールとするのか目標を明確にしておかなければ治療の混乱は避けられません。

図1は2015年3月に開催された日本脳卒中学会で発表されたRivaroxabanの市販後調査(PMS)の結果です。同じRivaroxabanを使用したJ-ROCKET AF試験よりも重大出血は減少し、虚血性脳卒中の発生は同程度でした。総死亡も減少しています。J-ROCKET AFに参加された「一流」の施設での結果よりもPMSの方が良い結果であったのです。

しかしながら、日経メディカルの記事などでは、過去に梗塞や一過性脳虚血発作があった虚血性脳卒中のハイリスク群ではJ-ROCKET AFで1.10%の虚血性脳卒中の発生であったものがPMSでは2%と増加しており、不適切に減量した投与量が問題だと指摘されていました。減量した10㎎の処方を受けた患者の中にもクレアチニンクリアランスが50l/minを超える患者が多数含まれているから不適切な減量で、それ故にハイリスク群で虚血性脳卒中が増えたのではないかという指摘です。

虚血性脳卒中の減少を第一の目標にするのであれば良好なワーファリンコントロールを目指せばよいことで何も高価なNOACを処方する理由はありません。現場の医師は虚血性脳卒中が減少すれば出血をしても構わないとは考えていないのです。

図2は10㎎を処方された患者と15㎎を処方された患者の臨床像です。クレアチニンクリアランスが50l/minを超える患者がいたとしても、10㎎を処方された群では75歳以上の患者が多く、低体重患者が多く、HAS BLEDスコアの高い患者が多いという結果です。添付文書通りに処方せずに高齢や低体重や出血リスクを見て患者を守ろうとして減量している姿が見えます。日本の現場の医師は教条主義に染まらずに患者を診て、真剣に考えて処方されていると感じました。捨てたものではないと思います。

実は、私は日本の医師は大丈夫なのかと心配していました。最初のDabigatranでも2剤目のRivaroxabanでも4剤目のEdoxabanでも市販後最初の1年で脳出血死は発生しました。その中にはクレアチニンや体重すら測定されていなかった患者さんが含まれていました。頭蓋内出血という生命に関わる問題を起こしかねない薬剤にもかかわらず何も注意を払わずに処方する医師がNOACの市販後何年も経過しているのにまだ存在することが明らかになったわけです。

そんな医師が存在することも事実ですが、RivaroxabanのこのPMSの結果を見て多くの日本の医師はまともだったと安心しました。私が繰り返しAnticoagulation at Minimum Bleeding Riskと言わなくても既に多くの先生はその概念で患者を守っておられたのです。かつて多くの薬剤の添付文書の用法用量には患者の年齢や体重、腎機能を見て用量を加減しなさいと記載されていました。NOACにはそんな記載はありません。

NOACの講演会では添付文書通りに処方せずに勝手に減量して虚血性脳卒中が発生したら、その医師の責任だぞ等と言われる演者もいます。体重80㎏の患者群で検討された処方量では不安だと考え、患者を診て、安全を優先して考え、処方された先生が悪いのでしょうか?低用量のデータはないのだからエビデンスのある高容量を一律に使うのがEBMだというのは間違ったEBMだと思えてなりません。演者をされる先生の多くはJ-ROCHET AFに参加された施設の先生です。そのJ-ROCKET AFよりもハイリスク患者を除けばより良い成績を出した巷の先生方の結果をこそ活かすべきだと私は思います。すでに多くの現場の先生は添付文書記載の用法容量を支持していない現実を見つめるべきであろうと考えます。

NOACであっても、あるいは虚血性脳卒中を減らす効果よりも頭蓋内出血を減少させることが期待されるNOACであるからこそ、更に虚血性脳卒中を減少させることを追求して出血を増やすよりもAnticoagulation at Minimum Bleeding Riskの概念が重要だと思っています。



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