午前中の労作時に胸痛があるとの主訴で来院された50歳代前半の女性です。7年前に他院で冠動脈造影を受けて冠攣縮性狭心症と言われたそうです。負荷心電図も陰性でしたが冠動脈の評価をCTで実施しました。Fig. 1に示すように冠動脈3枝にはプラークもなくつるつるです。これだけきれいだと冠攣縮性狭心症も疑わしいなと思いながら、胸痛時にはニトログリセリンを舐めて効果を確かめて下さいとお返ししました。
深夜から緊急冠動脈造影を行いました。Fig. 3に示すようにhigh lateral branchの99%狭窄です。蛇行が強いこと、潅流域が狭いことなどから予定の冠動脈造影でこの血管をみてもPCIをしようとは思わなかったと思いますが、胸痛が強いこと、STが上昇していることよりPCIをしようと決断しました。しかし、マイクロカテーテルのサポート下にSion wireが通過しましたが、マイクロカテーテルが通過しないためにそこでPCIは断念しました。
あとで振り返って何故、PCIをしようと決めたかを考えれば、大丈夫ですよとお話しした方が、当日に心筋梗塞を発症したという罪悪感から何かしなければならないと考えたように思います。冷静に考えれば、保存的な治療で良かったと思います。多くの循環器医や心臓外科医は対角枝では人は死ぬことはないと思っています。この考えはほとんどの場合正しいと思っていますが、34年の循環器医のキャリアの中で1例だけ対角枝の閉塞で亡くなった方を見たことがあります。ショックで来院され心タンポナーデになっていた方です。対角枝1本の閉塞で心破裂になっておられ救命できませんでした。
一つのミスを犯した時に、こんな小さな血管であれば仕方がなかったと言い訳すると更に大きな問題に発展するように思っています。こんな小さな枝で致命的になることも心機能が落ちることもないのだからと言い訳を並べるよりも、これ以上にミスを重ねないという信念で緻密に見てゆかなければと考えました。十分な降圧とβブロッカーで管理しました。発症から1週間が経過しもう大丈夫かと思っています。しかし、救急車を呼んでくれて幸いでした。また、当院に向かって来てくれて幸いでした。万能である筈もない医師が冒すミスを、来て頂くことで挽回する機会を得たように思います。

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