PCIの歴史の中でステントの登場は画期的でした。急性期の死亡や緊急手術といった合併症をドラスティックに減少させ、続く薬剤溶出性ステント(DES)は再狭窄を劇的に減少させました。バルーン単独では30-40%が再狭窄していたものが最初のBare metal stent(BMS)であるパルマッツシャッツステントで20%程度に再狭窄は減少しました。60-70%の方はバルーン単独で再狭窄を免れていたのですがステントが普及するとPCIを受けるほぼ全例がステントを植え込まれました。また、DESが登場するとBMSで再狭窄を80%の方は免れるにもかかわらずほぼ全例の方がDESを植え込まれるようになりました。より良い成績のものがすべてを席巻するという世の習いのように思います。
バルーン単独とBMSの再狭窄率が比較されていた頃、バルーン単独の再狭窄率40%に対してBMSのそれは15%等と優位性が喧伝されました。次いでDESが登場しBMSの再狭窄と比較されると、DESの数%に対してBMSの再狭窄率は25%であったなどと論文が出されました。バルーン単独と比較した時には15%の再狭窄であったのにDESと比較すると25%に上昇するなんて不思議な話だと思ったものです。新たな製品が登場すると古い製品はけなされる運命のようです。
6/8 新規抗凝固薬(NOAC)であるプラザキサの発売2周年講演会に行ってきました。75歳以上の高齢者でもワーファリンと比較して脳出血の頻度が少ない、腎機能低下例でも・抗血小板剤併用患者でもワーファリンと比較して脳出血は少ないなどと講演は進みました。また脳出血を起こしても重篤にはなりにくい等という講演もありました。こうしたデータを疑っているわけではありませんが、あまりにイケイケドンドンで逆に心配になりました。会の最後の方でH大学のO教授が発売半年後に重篤な出血などで死亡例が出てブルーレターが出たことを忘れてはいけないと発言されたのでようやく救われた気分になりました。
図はプラザキサの市販後調査の最終報告の一部です。図に示された方は全例重篤な出血があった方です。そのうちプラザキサの使用禁忌となるクレアチニンクリアランス(CCr)が30ml/min以下で私たちがよく使う指標であるeGFRが30ml/min/1.73m2以上であった症例です。ほぼ全例が高齢で低体重です。1例目の方のCRE値は0.78です。しかしCCrを計算すると25.7ですから禁忌症例です。CRE値で判断してもeGFRを計算しても禁忌例であることは分からないのです。本当に注意が必要です。
講演会の中では質問の時間がなかったので懇親会でO教授に質問しました。CCrが40未満の方ではプラザキサを処方しないとO教授が言っておられたので「ではそのようなケースではより出血リスクの高いワーファリンを使用するのか?」と尋ねました。返ってきた来た答えは「エリキュースが良いかもしれないとも思うし、オフラベルだけれどプラザキサ1日150㎎が良いかもしれない」とのことでした。そしてその答を得るためにスタディーが必要だと言われました。質問してよかったと思いました。
今でも心臓に人工弁が入っている方や僧帽弁狭窄症に伴う心房細動患者さんではワーファリンが唯一の抗凝固薬です。50年も連れ添ったパートナーを、それもまだ確実に必要なのに、新しいパートナーができたからといってあまりにけなすのもいかがなものかと思っています。また、新しいパートナーをあまりにイケイケドンドンで持ち上げるのもいかがかと思っています。確かにNOACがワーファリンより多くの場面でより良いのだと思います。しかし、まだ2年しか経過していない若い薬です。高齢者・低腎機能・低体重・抗血小板剤併用患者などでの使用でまだ解決しなければならない課題が残っているように思っています。現在、国内で約100万人の方がワーファリンによる抗凝固療法を受けていると言われています。プラザキサの処方を受けておられる方は約20万人と聞きました。全症例の20%未満の方しか処方を受けておられないのは課題が残っているという循環器医の意思表示のように思います。またプラザキサを処方されている方の10%はオフラベルの投与量である1日150㎎の処方だとも聞きました。敢えてオフラベルの処方をしている医師の危惧は決して小さくないのです。より多くの方がNOACの恩恵を受け、心房細動による塞栓症を免れ、抗凝固薬による脳出血を免れるように願うとともに、スタディーなどで協力できるところがあれば微力を尽くしたいものだと思っています。
NOACとはnew oral anticoagulantの略でしょうか?何でも略字・頭文字にしないでfull termを併記してください。
返信削除匿名様、コメントをありがとうございます。少し前までNOACはご指摘のようにnew oral anticoagulantの略として使われていました。しかし、最近はnovel oral anticoagulantの略として理解されています。newでもnovelでも日本人にとってはあまり意味がないものと思っています。ですから日本語で一般的に使われる用語の後にかっこを付けて記載したつもりです。NOACとは?で検索されてこのブログに辿り着く方が少なくありません。ですから日本語表記が意味あると思っています。あとはネットで調べれば英文はすぐに出てきますよね。
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