2013年10月18日金曜日

PCIの術者であり続けられることの幸せ

Fig. 1
1977年にGruentigよって人の冠動脈に対する初めてのPCI(当時はPTCA)がなされました。1979年に医師となり循環器医を志した私はPCIの歴史とともに医師としての人生を歩んできました。若い頃には心カテが上手くなりたいと思い、PCIが日本に導入されると早くPCIの術者になりたいと願い、術者になればより困難な治療を自らの手でできるようになりたいと思ってきました。

Fig. 2
しかし、年齢を重ねることは避けることはできません。部長となり、院長となり、組織の幹部になるにつれて後輩に術者を任せ、後輩の育成や診療科や病院の経営にタッチせざるを得なくなります。若手の育成はともかく、より良い術者であることを目指して努力してきたわけですから経営などわかる筈もありません。ただ年齢を重ねただけで経営に携わるようになった医師で、素晴らしい経営者になった人はあまり見ません。それはセンスがないのではなくそんな勉強や修練をしてこなかったからです。

 2000年に院長となった時にいずれカテを置くのだから、自分が思っていたのより少し早くなっただけだと自分に言い聞かせていました。思いがけず徳洲会を退職し2006年に鹿屋ハートセンターで再びカテを始めるまで、ほとんどカテは触りませんでした。メスを置いて開業した外科医が再びメスを持てるのか、カテを置き管理職や開業した自分が再びPCIの術者に戻れるのかなどと考えていましたが、患者さんに迷惑をかけるような術者ではないだろうと自分なりに思っています。また、再び術者に戻れたことを幸せだと思っています。若い頃からずっと目指してきたことだからです。病院の院長や大きな組織の幹部を目指してきたわけではないからです。

Fig. 3
Fig. 4
本日のブログの患者さんは以前にも書いた方です。2年半前に主幹部病変が原因で不安定狭心症となり、ステント植込みを当院で実施しました。その後、再狭窄もなく安定しておられましたが再び労作時の胸部症状が出てきました。140㎝しかないのに75㎏と高度肥満です。痩せろと言っても膝が痛くて歩けないので痩せられないと言い訳ばかりです。膝が痛いのも冠動脈が悪くなるのも肥満が原因だと言っても聞いてくれません。もちろん努力しないで悪くなるのは自業自得だなどとは言えません。悪くなれば治療をするしかありません。ストロングスタチンを内服して比較的よくLDLは下がっていましたがここに来て急上昇です。こんな方がよくいらっしゃいます。LDLが急に上がった時に冠動脈も悪くなっているというパターンです。これも以前に書きましたが、経過を見ているとLDLが上がったから悪くなったというよりも冠動脈が悪くなるとLDLが高くなるという風に見える方です。

Fig. 5
本日の造影では左冠動脈主幹部のステント植込み部に再狭窄は全く認めませんでした。2年半前の造影時(Fig. 2)には50%ほどの狭窄であった#2が今回の造影では亜完全閉塞です(Fig. 4)。上肢からのカテもかつて行ったことがある方ですが、その時には鎖骨下動脈の蛇行と、短い上行大動脈の半径の短いアーチのために造影すらできませんでした。そのためにそけいからのアプローチです。そけいにかぶさる脂肪を引き揚げながら穿刺するというような状況で日を改める気にはなりませんでした。そのために亜完全閉塞ですがAd hocです。もちろんこの冠動脈の状態はCTで予想していました。僅かに見えるルーメンをトラッキングするために最初にXT-Rを使用しました。しかし、高度狭窄が一旦終わり拡張した部位(Fig. 4 yellow allow)でワイヤーは反転できず前に進めませんでした(Fig. 5)。次いで使用したのはGaia 1stです。ワイヤーを替えXT-Rが超えなかったところで僅かに回転を加えるだけでスッとワイヤーは進みました(Fig. 6)。押す力はほとんどかけていないので穿通力ではありません。Gaiaの売りであるTorque controlとDeflection controlがよく活かされたと感じました。ワイヤーが通過すればあとは簡単です。前拡張し、IVUSで血管径を評価し薬剤溶出性ステントを植え込んで終了です(Fig. 7)。

Fig. 6
左冠動脈主幹部で生命の危機を経験しても痩せる努力はしてくれませんでした。今回こそ、頑張ってくれると良いのですがなかなかままならないのが現実の臨床です。叱ったり誉めたりしながらの付き合いです。逆に患者さんから怒られたりもしますが不思議とこんなやり取りは嫌ではありません。うまく治療できたのでこれからもこの方との医師と患者としての付き合いは続きます。

 一旦カテを置き、管理職となってからの再デビューなので不安もありましたが、何とかやっていけていると思っています。何時までもできる訳ではないことは承知していますが、今は目指したものを貫徹できる幸せを感じていたいと思っています。

Fig. 7





7 件のコメント:

  1. 横浜の循環器医です。いつも楽しく拝見させて頂いております。CTO lesionはTaperd wireとGAIAが出て
    Antegrade approachでの成功率は本当に上がった印象です。私はRetroが出来るほどの医師ではないので
    比べようがありませんがGAIAは不思議なwireです。御体にお気をつけて頑張ってください。

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  2. 匿名様、コメントをありがとうございます。勇気が出ます。

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  3. 先日カテーテル検査を受けようとした患者の家族です。ブログは大変興味深く楽しく拝見させていただいております。
    大変不躾なお尋ねをして申し訳ないのですが、

    カテーテル検査を受ける家族が、局所麻酔(キシロカイン)を使用後、今までに呼吸停止して意識不明が5日間以上続くショックが二度ほどあったので、麻酔なしでカテーテル検査を希望し了承していただいたのですが、検査当日の朝、ステロイドを服用すればショックは起こらないから局所麻酔をするといわれ、怖くなってキャンセルして退院してしまいました。
    最近では、ステロイドを使えば局所麻酔のショックは防げるのでしょうか?知識がなかったため先生に失礼なことをしてしまったのか、それともこの選択が正しかったのか悩んでいます。
    どちらにしても、カテーテル検査もステントを入れることも必要になってくるので、もう一度予約を入れなおすか局所麻酔をしないで対応していただける病院を探した方が良いのか迷っています。
    もしよろしければ先生のご意見をお聞かせください。

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    1. 局所麻酔剤ではありませんが、造影剤のアレルギーのある方の場合、造影剤なしで検査治療は不可能です。ですからステロイド剤を使用してアレルギー反応を抑制して検査治療をすることは少なからずあります。
      しかし、アレルギー反応を完全に抑えられる訳ではありません。反応が起きたときを想定して対処も準備しておきます。

      局所麻酔剤によりアレルギーの場合も同様です。選択は麻酔剤なしで実施する、局所麻酔剤を変更する、ステロイドを併用するの3つです。医師にとって本当はそんな問題を持っている方にはなるべく関わりたくないのです。死に至らせることも怖いですし、訴えられることも怖いのです。しかし、医師がみずからを守ることだけを考えずに病気に立ち向かおうという姿勢には共感を覚えます。きっと、ステロイドを使用しても起こるかもしれないアレルギー反応も予想して対処を考えておられると思います。決まった方針だけで判断するだけではなく、方針を決めた過程も含めてよく主治医の先生と相談されるのが良いかと思います。

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    2. 先生、ご返答ありがとうございます。大変心強く感じました。
      造影剤を用いたCTの際は、プレドニンを服用してアレルギーは特に起きませんでしたので、今回はカテーテルをした方がいいという結果になり、専門医に依頼した次第です。

      アレルギー反応を予想しての対処をしていただけるのなら、家族を説得したいと思います。
      本人的には、お互いにリスクのあることをしたくないので麻酔なしでお願いしたいようなのですが、やはり、局所麻酔を無しでのカテーテルというのは難しいのでしょうか?
      もともとのかかりつけ医の先生は、透析の針が麻酔無しでしているので、それが大丈夫なら(透析をしています)多分大丈夫だろうといわれたのですが、カテーテルとなるとやはり別なのでしょうか。
      また、全身麻酔は使えるのですが、全身麻酔でカテーテル検査は可能でしょうか?
      直接、執刀医の先生に聞ければいいのですが、なんとなく聞きづらい雰囲気の先生ですので、こちらで聞いてしまい、甘えてしまって申し訳ありません。

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  4. 局所麻酔なしでの検査・治療に際して痛みのあまり脈が極端に遅くなったり血圧が下がったりといった現象が起こる可能性もあります。全身麻酔に関してもリスクはありますし、そもそも心カテ室に麻酔の設備が整っている病院は稀です。すべての判断にリスクを伴います。ですから患者さんと医師の双方が納得できる選択が望ましいと思います。聞きづらい雰囲気というだけで、大事な命を預けるのに話し合わないのはよくないと思います

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    1. 先生、大変貴重なお意見をお聞かせいただきありがとうございました。
      局所麻酔なしでの検査・治療にはそのようなリスクがあることを知ることができ大変参考になりました。

      本日いろいろ進展があり、かかりつけ医(心臓)と透析の病院の先生とでの話し合いで、やはり局所麻酔ありでの検査は危険を伴うため、別の心臓専門病院での検査を受けることになりました。
      こちらの先生は何度か診ていただいたことがあるのですが、説明も丁寧で、いろいろと相談しやすく何より信頼関係が築けそうなので、家族のものも安心しています。
      透析の関係で、最初の病院は決まったのですが、次に行く病院でもいろいろと対応していただけることがわかりましたので、そちらで改めて検査を受けることにしました。

      いろいろと貴重なお話をお伺いすることができ、本当にありがとうございました。
      これからも、ブログを楽しく拝見させていただきたいと思います。ありがとうございました。

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