毎日の仕事だけに向かい合っていると、自分の仕事が正しい方向に進んでいるのか否かを見失うことがあります。折角の機会だと思い、2000年に鹿屋に来てからの仕事をざっと振り返りました。
2000年に私が鹿屋に転勤してくるまで鹿屋市では冠動脈のカテーテル治療 PCIを実施する施設はありませんでした。ですから、鹿屋市内のPCI件数は0件です。日本最下位のPCI供給体制であった訳です。もちろん小規模な離島などでPCIができない土地は存在しますが、当時、鹿屋市は鹿児島県内2位の人口の町でしたので、こうした県2位の町でPCIができないのは全国で鹿児島県、鹿屋市だけでした。規模があるにも関わらず、PCIの恩恵を受けることができないPCI領域の未開の地(undeveloped area)にPCIをもたらそうと思って転勤してきたのが2000年です。
上段の図は少し古いデータになりますが、2007年のPCI件数です。人口10万5千人の鹿屋市で794件のPCIが実施されました。人口10万人当りの件数は752件で、当時全国2位でした。当時の1位は千葉県松戸市です。小倉ライブのこのセッションには松戸の先生も参加されており、松戸の症例数には千葉県全域からあるいは全国から来られる患者さんが含まれているので松戸の住民だけではないと説明を頂きました。であれば、他地域からPCIを受けに来られる方がいないであろう鹿屋が地域住民に対する供給という意味では全国1位ということだなと理解しました。2000年まで全国最下位の未開の土地であった鹿屋市が僅か7年で全国1位の先進地(developed area)に変貌しました。このデータに興味があり、全国の10万人当りの件数等を調べましたが、2007年当時の全国最下位は東京都江東区でした。46万人の人口に対して90件余りのPCIしかなかったのです。東京23区平均は人口10万人当り200件程度でした。東京は発展途上地域(developing area)でした。最も進んだ地域ではありませんでした。ちなみに2007年当時全国で約20万件のPCIが実施されましたが、現在は約25万件と言われています。10万人当り約200件です。
では全国平均の約200件が標準で鹿屋の数字は過剰なのでしょうか?北九州市や熊本市、豊橋市といった件数の多い土地のPCI件数は200件をはるかに超えますし、それを含んで平均200件ですから200件を下回る地域が少なからず存在し、その結果の全国平均200件です。日本中くまなくPCIが供給されればPCIの需要は人口10万人当り200件を確実に超えると思います。まだ日本全体のPCI市場はdevelopingなのだと思っています。
国内でPCIの市場が飽和に達した地域が他にあるだろうかと思いますが、鹿屋市は確実に飽和に達しているものと思っています。飽和に達した後の経過はどうなるのでしょうか。下段の図に示すように2012年も2013年もPCIの件数は2007年に対して約20%の減少です。個々の医療機関のPCI件数は様々な要因で変化しますが、20%の減少は地域全体での減少です。実数にして173件の減少、10万に当たり164件の減少です。2007年の10万当たりのPCI件数の全国平均は166件ですから、こうした現象が全国でも起こればPCIの市場は壊滅的となります。ただ全国のPCI市場はまだ飽和していなくてdevelopingなので壊滅にいたることはあり得ません。
飽和した市場での20%の減少はおそらく薬剤溶出性ステントによる再狭窄減少がもたらしたものだと考えています。市場の開拓が進まなければこの20%のPCI減少は今後 全国で発生するものと思います。全国に存在するPCIを提供する2000施設のうち400施設が消滅しても不思議ではないインパクトです。
「医療が高度化することで医療費が増大する」とよく言われますが、PCI領域では医療の高度化が確実に医療費を低減させているものと考えています。2014年4月から待機的PCIの手術料は約10%下がりました。同じ診療報酬でも既に20%の市場の縮小が始まっている中での診療報酬の低減ですから、医療機関がPCIを提供し続けることの困難が進んでいます。そしてこの困難の中で確実に必要な急性心筋梗塞に対するPCIすら提供できない時代が来るのではないかと、飽和の後のPCI領域の「医療崩壊」を心から心配しています。
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