2020年6月6日土曜日

1本のステントが、患者さんの人生を変える、そこを目撃するカテーテル治療医のよろこび

 7年前にステント植え込みを行った方です。7年前には50歳代でしたが60歳を超えました。現役の大工さんです。初診時の主訴は起坐呼吸でした。明確な胸痛の既往はありません。初診時の心電図はまだSTの上昇した前壁梗塞です。心筋逸脱酵素の上昇はありませんでした。2番目の図は初診時の心エコー所見です。左室拡張末期径は69㎜、左室駆出率は20%です。発症時期不明の前壁梗塞による心不全と診断しました。

3番めの図はステント植え込み前のCAGです。左冠動脈前下行枝が中隔枝のすぐ後で完全閉塞でした。幸い、再開通はうまくいきましたが、時間が経過した心筋梗塞だったのでどれほど心機能が回復するか自信がありませんでした。

もちろんCTでは経過を見ていましたが冠動脈造影は7年ぶりです。以前植え込みんだステント部位の再狭窄もなく良好な結果でした。

その下の図は最新の心電図です。以前に心筋梗塞をしたのだろうなというのは分かりますが、初診のころの心電図とは印象が異なりいわゆるおとなしい心電図です。

その下の図は最新の心エコー所見です。左室拡張末期径は58㎜とやや拡大していますが左室駆出率はなんと74%です。



ステント植え込みを行う前、行った直後にはどれほどの心機能の回復が起きるのか全く分かりませんでした。左室駆出率20%の方の人生は容易ではありません。とても大工仕事ができるとは思いませんし、安静時でも苦しみ入退院を繰り返す人生だったかもしれません。しかし、現在では、以前使用していた利尿剤もやめ、少ない内服で元の仕事が支障なくできているのです。冠動脈完全閉塞を再開通させることで劇的に心機能が回復した症例などとこうした治療の評価が定まる前であれば症例報告されるようなケースです。今ではこうしたケースは少なくないので学会報告するほどのケースではありません。今回、7年ぶりに冠動脈造影のために入院していただき、普段の通院よりは少しゆっくりとお話しできました。そして1本のステントが心機能を回復させ、初診時に心配したような悲惨な人生ではなく、本来の人生を取り戻されたことを同年代のものとして素直にうれしく思いました。私は若い先生にカテーテル治療を指導するときに、カテを持つ医師の手の中に患者さんの命があることを忘れるなと言ってきました。これからは、命だけではなく治療を受ける患者さんの人生も手の中にあることを忘れるなと言うかもしれません。










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