2011年3月2日水曜日

難渋したCABG後のPCIをしながら考えたこと 心臓外科医の仕事とPCIを実施する循環器内科医の仕事


Fig. 1 Before first PCI on 22, Aug. 2007

  24年前に3枝に対するCABGを受けられた方です。2007年から当院通院中です。初診時の症状は安静時の胸部不快感で不安定狭心症と考えました。LITA-LADは開存、SVG-CXとSVG-RCAは閉塞です。Fig. 1に示すようにLMTは90%狭窄です。保護されたLMTですからPCIの良い適応と考え、TAXUS stentの植込みを行いました。その後再狭窄は認めません。

2008年に狭心症を再発し、#3 distalから#4PDの90%狭窄にもTAXUSを植込み、やはりその後の再狭窄はありません。

Fig. 2 Tight stenosis at LITA-LAD anastomosis
その後2年半の間、無症状で調子が良かったのですが、無症候性にエコーで見た左室拡張末期径が大きくなってきました。そこで行ったのがFig2、Fig. 3の造影です。LMTに植え込んだDESにもRCAに植込んだDESにも再狭窄を認めませんでしたがLITA-LAD吻合部に90%狭窄です。LADの完全閉塞距離は長いのでantegradeにLADのCTOからnativeを通しに行くのは困難を極めることが予想されます。一方、LITAから灌流されているので側副血行路は存在しません。native LADを通しに行くのにretrograde approachという選択もありません。しかし、LITA-LADは開存している訳ですからLITAからapproachすれば良いことです。

普段はAd hoc PCIですが、今回はそうはいきません。LITAの近位部にガイディングカテを置くと、そこから狭窄までの距離が長いためにバルーンが狭窄まで届かないの です。短いガイディングカテを用意しなければなりません。短いカテを用意して、本日PCIを実施しました。Left Radial approachです。
 
Fig. 3 Severe elongated LITA

   困難はここから始まりました。最近のガイディングカテはバックアップを良くするためにシャフトが硬めです。鎖骨下動脈の蛇行で先端がLITAに向かないの です。このため普段使っている4Fの診断カテを使ってPCI用の0.014ワイヤーをLITAに入れ、そのワイヤーを使ってガイディングをLITAにエン ゲージさせました。ようやくワイヤーを通過させる仕事ができる形になったと思いましたがFig. 3に示すように屈曲がひどくここにワイヤーを通過させようとするとガイディングが外れてしまうのです。ガイディングをdeepに入れるとLITAの解離の 恐れがあります。LITAを解離させてしまうと、虚血に陥ったLADを救うapproachがなくなってしまいます。このためせっかく用意した短いガイ ディングは諦めました。TERUMOの5F Heart rail straight を短く切断し、5Fシースに繋いで即席で短いガイディングを作成しました。これをLITAに入っているwireを支えにLITAにdeep engage させました。
Fig. 4 After PCI with only balloon

再び仕事を始める形ができましたが、複数のクランクになっているために今度はwireの操作が全くできないのです。最初に使っていたwireはrun through extrafloppyでしたがGrandslam でもX-tremeでもFielder FCでもSuouでも同じことです。次の手はFinecrossです。Finecross内にwireを入れてwireが進んだ分だけFinecross を進めてゆき橋頭保を確保しながら更にwireを前に進めてゆきます。これでようやくwireのクロスができましたが、今度はクランク部分でバルーンが進みません。ガイディングカテから狭窄までの距離が長いためにRXタイプのバルーンではワイヤーの通過していない硬いシャフト部分が屈曲にかかってしまうのです。Finecrossが通過するのですからOver-the-wireタイプのバルーンであれば屈曲を超えて持ち込めると思いましたが、最近はOTW を全く使用しないのでカテ室にはもう置いてありません。万策が尽きたと思ったのですが、それまで持ち込もうとしていたTERUMOのHiryuから MedtoronicのLegendに換えるとするすると病変を超えました。ステントは持ち込めないと考え、long inflationで終了です。Wireを通過させる頃から上がっていたSTも落ち着きました。

ただの狭窄であれば10-15分で終了するPCIが2時間もかかってしまいました。こんなに手間がかかった理由はLITAの屈曲です。Fig. 3のようにLITAは近位部からクランクを繰り返していますが、屈曲点のすべてにLITAの側枝の止血に使ったと思われる金具が見てとれます。随分と近位部からLITAを剥離したために余ったLITAが屈曲したのでしょう。こんなに長い距離を剥離しなくてもよいのにと少し恨み事を言いたくなりましたが20年以上も役割を果たしたLITAです。良いCABGであったと心臓外科医を誉めるべきなのでしょう。

こんなことを言うと心臓外科医にお叱りを受けそうですが、心臓外科医の仕事は多くの場合、手術で終了です。その後の再発を防ぐ内科治療も、再発した時の治療も循環器内科医が担います。循環器内科医の仕事は心臓外科医の仕事よりも息の長い仕事です。

PCI を実際に行っている日本の循環器内科医の中にはCABG を極端に嫌う人も少なくありません。術後の再発のケースの治療に難渋することが多いからだと思っています。今、目の前にある病変だけで治療方針を決めるだけではなく、5-10年後に予想される悪化形態に合わせた治療の選択が重要だと思っています。例えばLADのdiffuse long lesionの場合、単純にLAD末梢にLITAを吻合しても灌流される領域はあまり大きくありません。一方、LITAに問題が起きた場合、その時にはLADは完全閉塞になっているでしょうから、長い慢性完全閉塞のカテーテル治療は簡単ではありません。それならば完全閉塞になる前に最初からカテーテル治療をしたほうが良いのではないかとも思います。このような考えでPCIを実施したのが2010年11月22日のケースです。Syntax scoreの高いケースではCABGの方がPCIよりも長期成績が良いという結果が出ていますが、1例1例で見るとCABGが優る場合もあればPCIが優る場合もあると思います。EBM だけでは語れない世界が存在します。循環器内科医がPCIをしたいからという理由でもなく、また心臓外科医がCABGをしたいからという理由でもなく、患者の病変形態や全身状態からベストと思える治療の選択をしなければなりません。これも循環器内科医の仕事です。



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