何故、ブログを書くのかを2010年12月15日付で書きました。それはネット時代にわざわざ学会に行かなくてもネットで発信すればよいではないかという内容でした。では、何を発信するのでしょうか。それは、30年間のカテーテル検査に関わってきた経験や25年間のPCIに関わってきた経験を伝えたいということだと思っています。私の経験が正しいと言いたいわけではありませんが、短くない経験を次の世代に参考にしていただければと考えてのことです。技術的なことも伝えることができればとも思いますし、心構えも伝えることができればとも思っています。
カテーテル検査やカテーテル治療は、生命に関わるリスクのある手技であり、まず自分の手の中に患者さんの命を預かっているという恐れを持って臨んでほしいと思いますし、私自身がそれを忘れてはならないとも思っています。ですから、冠動脈が狭ければバルーンで拡げてステントを入れておしまいという感じで出たとこ勝負というのはあり得ないと思っています。このため治療のデザインができていなければデザインができるまで手を出さない選択を2011年1月14日付のブログで書きました。また、困難が予想されるケースでは、自分の力量、使える道具の特性を知ること、バックアップを準備することを書きました。十分な準備をしたのにクリティカルな状況になった場合の対処にも、対策の有効性と弊害(合併症)を考慮して実行を図るのだと書きました。また、クリティカルな状況になった時には、責任回避の言い訳を考えるよりも危機回避に専念すべきと書きました。今回は宣言することの意味を書こうと思います。
IABPを入れたケースで、入れるぞと宣言してから作動までが4分であったと書きましたが、その前に、IABPを入れる可能性があり、準備を始めてくれと宣言していました。このため、カテ室のスタッフのあるものは手元にIABPのセットを置き、いつでも開封できるようにしていましたし、あるものはIABPのための心電図をセットし、テストバルーンでの作動を確認し始めました。また、病棟では帰室後の圧モニターがすぐにセットできるようにICUにベッドを準備し始めました。こうした、宣言と準備があって、決断から4分で実際の作動させることができたのです。作動が始まれば、ICUではベッドサイドで圧モニターキットが実際に準備されますし、次のカテのケースには本人やご家族に次のカテの開始が遅くなったり、あるいは延期になったりという可能性を伝えることも始まります。このように、鹿屋ハートセンターのような小さな施設であっても、一つの緊急時に発生する複合的な作業は、やるぞという宣言から始まるのです。宣言がなければ、こうした準備を勝手にスタッフが始めるのはためらわれるものだと理解しています。リーダーの宣言がある故に、ためらわずに迅速な行動に移れるのだと思います。
緊急事態にリーダーが緊急事態であることを宣言しない場合はどうなるでしょうか。スタッフの多くはリーダーに助言や意見具申をすることをためらって、処置が後手後手になるかもしれません。こうした時に、自分たちの行為が人の命に係わるのだという意識が最も重要ですから、リーダーに嫌われても、このままで良いのかと思い切って口に出すことがスタッフに求めれる責任でしょうし、宣言が遅れたリーダーも意見具申されたことを感謝しなければなりません。このようなリーダーと副官との間の葛藤は1995年の映画「クリムゾン・タイド」でも描かれています。この映画の中では、艦長からの一方的な命令伝達と復命だけではなく、副艦長の役割も描かれています。リ-ダーが過ちを犯す時にそれを修正するスタッフの力があってチームはより良いものなるのだと思っています。
今回の震災とそれに伴う福島の原子力発電所の事故で、原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力緊急事態宣言の発出がなされ、原子力災害対策本部が設置されました(第15条)。この宣言がなされたことで、対策は国家の責任でなされることが決定づけられました。一方、今回のような大規模激甚災害であるにもかかわらず、災害対策基本法に基づく災害緊急事態の布告(105条)はなされていません。このため、広域避難も地方自治体単位で動かざるを得ない状況になっているのだと思います。このような激甚災害でも布告がなされないのであれば、災害対策基本法の105条など不要ではないかとさえ思ってしまいます。
ハリケーン・カトリーナの上陸に際し、ブッシュ大統領は非常事態を宣言し、その宣言がある故に、FEMAが国家の責任において対策を講じました。この時のFEMAの対応には問題があったとの批判はありますが、大統領が非常事態を宣言することでルイジアナ州だけでの責任ではなく国家の責任が明らかになったことには意義があったと思います。
布告がなされず、国家の責任で系統だった救難や復興ができなかったとすれば、その責任はもちろんリーダーにありますが、リーダーに対する助言や意見具申ができなかったとすれば、そのスタッフの責任も小さくはありません。
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