私は大阪で生まれ、大阪で育ちました。34歳で神奈川県鎌倉市の病院に転勤するまで関西を離れたことがなかったのです。
大阪の文化が好きです。別にお好み焼きやたこ焼きをこよなく愛しているわけでも、日常の会話でもボケやツッコミを意識しているわけではありません。つい数年前まで花月劇場にも行ったことはありませんでした。
私が好きなのは井原西鶴や大阪の生まれではありませんが近松門左衛門の世界、あるいは川端康成や大宅壮一、いつかブログにも書いた高橋和己の世界等です。そこにボケやツッコミというような今風の大阪の世界はありません。文学的であったり論理的であったり、批判精神にあふれていたりと言った世界です。
そんな大阪の文化の中でもお気に入りの一つは「やってみなはれ、やらな分からしまへんで」というサントリー創業社長の鳥井信治朗の精神です。既存のもの、体制の枠内のものだけを考えていては何のイノベーションも起きません。「そんなもん、役に立つんかいな」と思いながらも「やってみなはれ」と考えるところから時代を創るものができるかもしれないと思います。
「演劇と医療のコラボ」というテーマでものを考え始めた時、こんな得体のしれないコラボと思いましたが、大阪大学にそんなことを考えるセンターが存在しました。コミュニケーションデザインセンターです。演劇人であり、かつて鳩山内閣で内閣参与も務められた平田オリザさんも教授でした(現在は客員教授?)。平田氏は阪大総長から「ちゃんと患者とコミュニケーションができる医者を育ててや」と教授就任時に言われたそうです。流石に大阪です。大阪大学です。得体のしれない「演劇と医療のコラボ」のコンセプトは既に「やってみなはれ」的に大阪でスタートを切っていました。
平田氏は患者が質問しやすい椅子の配置など舞台美術を考えるように診察室を作れるのではないかとか、具合の悪い時に受診しやすい病院などを演出できるのではないかと言われています。こんな発想は医療者や建築家からはあまり聞きません。医者が考えればホテルのようにきれいな病院だとか緑が見える癒しの空間、あるいは実務的に医療者が動きやすい動線を考えた設計などに行きつきがちです。医療者と患者のコミュニケーションを高める舞台づくりなどという発想は新鮮でした。
音楽座のスタッフとお会いして今日でちょうど1週間です。たった1週間考えただけで、
医師のコミュニケーション能力を高めることででの治療成績への介入
医師だけではなく看護師・薬剤師、リハビリなどのコメディカルのコミュニケーション能力
学会発表などでのプレゼンテーション能力
製薬メーカーのMRの医師との関係構築
コミュニケーションの円滑化のため建築・設計
など演劇を構成する役者やプロデューサー、舞台美術家などとのコラボで医療を患者に近づける工夫はいくらでもできるのではないかと思います。
あとはこの得体のしれない「演劇と医療のコラボ」というコンセプトを実現するための「やってみなはれ」という決断です。そうした決断が現実になるためのプレゼンテーションを考えましょう。
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