2011年9月8日付当ブログ「ワーファリンで治療中の心房細動患者に発症した脳卒中」でPT-INR: 2.16と良好にコントロールされていた患者さんに発症した脳出血の方について書きました。この方は幸い、マヒなどの後遺症を残しませんでした。この方は慢性心房細動患者さんで抗凝固療法はワーファリンのみです。
当院に通院されている心房細動患者さんは2012年3月の集計で290人でした。慢性心房細動患者133人と発作性心房細動患者157人の合計290人です。このうち慢性心房細動患者133人中130人 97.7%の方にワーファリンを処方していました。一方で発作性心房細動患者157人中116人 73.9%の方にワーファリンを処方していました。発作性心房細動患者さんでワーファリンを処方していない方はCHADs scoreが低く、なおかつ心房細動の頻度が極端に少ない方です。全体でみると290人中246人 84.8%の方にワーファリンを処方していました。
2011年はこのワーファリンを内服しておられる約250人中1人が脳出血を起こされたので0.4%の発症です。もうすぐ2012年も終わろうとしていますが、今年当院通院中の方お二人が脳出血で亡くなられました。お一人はワーファリンと2剤の抗血小板剤(DAPT)を内服している方でした。脳出血発症直近のINRは2.06でした。もう一人は心房細動のない方でもちろんワーファリンは内服しておらず、PCI後のためにDAPTを内服しておられる方でした。ワーファリンを内服している方の全体から見ればやはり年率0.4%の頻度ということになり、極めて高頻度という訳ではありません。種々の大きなスタディと比較しても当院での脳出血の頻度が多いわけでもありません。しかし、この問題を何とかしなければという気持ちが強まります。もう一人の方はもう何年も前にPCIを施行した方でしたが敢えてDAPTを止める理由もないだろうとの気持ちで続けていた方です。
ワーファリン+DAPTの方の脳出血を受けて、ワーファリン+DAPTの方の出血のリスクを減らすために薬剤溶出性ステントの植込み後1年以上を経過している方のパナルジンもしくはプラビックスの処方を止めてワーファリン+アスピリンの処方に変更を始めました。当院でワーファリン+DAPTの処方を行っている方は94人(全心房細動患者290人中32.4%)です。ただ左冠動脈主幹部などステント血栓症が発症した場合の致死的なリスクが高い方でも時日が経過しておればDAPTを止めて良いのかと悩みます。また、Cypher stentの植え込みを行っている方でDAPTを止めて良いのかも悩んでいます。こうした方ではPT-INRが2.0を超えない程度にコントロールしながらこれからの対処を考えていきたいと思っています。
一方、長期のDAPTの内服で脳出血を起こされた方を受けて、今までは出血などの中止する理由がなければDAPTを続けておこうと思っていた気持ちを切り替えてやはり1年以上経過した方では1剤に減らそうと思っています。この方針転換が吉と出るか凶と出るかは分かりません。出血性の合併症は減るかもしれませんが冠動脈閉塞による死亡が増えないかも心配です。
CABGとPCIの成績を比較してどちらが良いかというようなトライアルの成績を見て治療方針を決めるという考え方があります。EBMです。一方で個々の施設の成績が異なるのに、上手い下手があるのに大きなスタディの成績をその病院の成績を見ずにあてはめても良いのかという議論もあります。同じことは薬物療法でも言えると思っています。大きなトライアルの成績だけで治療方針を決めるのではなく、自施設の成績も見て方針を考えるべきだと思っています。私は新規抗凝固薬にすぐに飛びつかずにワーファリンを中心に心房細動患者を管理してきました。ワーファリンを第一選択にしてきた理由は抗凝固状態を加減できるからです。慢性心房細動でワーファリン+DAPTの方たちの平均INRは1.82±0.51(n=46)に対してワーファリン単独の方たちの平均INRは1.96±0.44(n=87)とワーファリン+DAPTの群でINRを低めに管理できていました。こうした匙加減が新規抗凝固薬でできるのかを心配してすぐに飛びつけずにいるのです。当面は上記のような方針転換でどのような結果が出るのかを注視してゆきたいと思っています。そしてそれが満足ゆく結果でなければ、他の先生たちの成績を教えてもらいながら新規抗凝固薬の使用も考えなければなりません。今のところ当院では評価できないDAPT+新規抗凝固薬の成績に注目してゆかなければなりません。
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