2012年6月7日木曜日

低腎機能患者の把握に統一した指標が必要です。

小学校6年生の息子が、鹿屋という狭い土地を飛び出して羽ばたきたいという気持ちを持っており、中学受験を目指して最近はよく勉強しています。算数であったり歴史や地理であったりです。いきおい、息子との会話もそんな話題になります。鎌倉幕府崩壊に至った徳政令の影響を話し合ったりします。

時代は下って豊臣秀吉の天下統一時の画期的な仕事と言えば刀狩と太閤検地です。太閤検地ではそれまでバラバラであったものさしや枡を統一し、このことで全国の石高を正確に把握し国家としての財政を安定させました。現代でも度量衡の統一は国家の財政の基礎であり、また、貿易の基礎となっています。ものさしの統一は国家の存続すら左右する大きなテーマです。

もちろん、このブログで度量衡の統一の歴史的な意味を語りたいわけではありません。2012年6月5日付の当ブログで冠動脈CT撮影時の至適造影剤量について論じました。造影剤腎症を防ぐ対策は色々工夫されていますが造影剤を使用しない、あるいは最小の使用量にすることほど有効な対策もありません。では、造影剤腎症のハイリスクである腎機能低下例をどう把握するかという問題です。腎機能を図るものさし、指標にはクレアチニン値、クレアチニンクリアランス、慢性腎臓病のステージングに用いるeGFRがあります。24時間蓄尿をして、計算されるクレアチニンクリアランス試験は平成18年に保険点数がつかなくなったので、どの指標も結局は血清クレアチニン値より算出されるものです。

造影剤量に関するブログをアップした後、札幌の藤田先生のところでは血清クレアチニン値が1.3以上の方では生食やメイロンで腎臓を保護しているとFacebook上で教えて頂きました。この腎臓を守る意識、検査で腎臓を悪くさせないという意識は重要です。腎保護をするかしないかの決定をする時に指標はこの場合血清クレアチニン値です。

では腎保護をしないクレアチニン値1.2で考えてみます。同じ1.2であっても

70歳男性 体重70㎏ 身長170cmの人であればCockcroft-Gault計算式によるクレアチニンクリアランスは57ml/minとなり腎臓学会の式で計算したeGFRは47ml/min/1.73m2となります。この方の場合、新規抗凝固薬ではクレアチニンクリアランスは50を超えているのでlow riskという判断になり高容量の投与が標準となります。一方腎臓学会のステージングではCKD-3、新しいCKD区分ではG3aとなり腎臓専門医に診察を依頼すべき程度のCKDという評価になります。
75歳女性 体重45㎏ 身長145cmの方であればCockcroft-Gault計算式によるクレアチニンクリアランスは29ml/min、eGFRは34ml/min/1.73m2になります。ともに高度の腎機能障害の判断となり新規抗凝固薬の投与がためらわれることになります。もちろん、造影検査も慎重に実施しなければなりません。同じ血清クレアチニン1.2でも計算で導き出されるCCrやeGFRは、体格や年齢・性別で大きく異なり、腎保護も一律に血清クレアチニン値では決められないということになります。


腎臓学会によるCKDの概念の提唱、区分のためのeGFRを多くのまじめな医師は勉強してきました。一方で新規抗凝固薬の投与量を決定する指標は保険点数まで削除したクレアチニンクリアランスです。また、多くの医師はクレアチニン値でざっと腎機能を推し量ります。同じ血清クレアチニン値から算出される3つの異なるものさし・指標を用いることによる混乱がCKD患者に対する過剰な造影剤投与という形で患者を苦しめないでしょうか。また、eGFRとクレアチニンクリアランス値の相違に気付かないまま、新規抗凝固薬が過剰に投与され、出血等の問題を起こさないでしょうか。eGFRを唯一の指標とする管理に統一できないのでしょうか。なぜ、新規抗凝固薬の判断基準はクレアチニンクリアランスなのでしょうか?腎臓学会の努力を軽んじる製薬メーカーやPMDAの姿勢は遺憾だと思っています。


秀吉の度量衡の統一は近世を確立し、徳川幕府、明治政府の安定した国家経営の基盤にも寄与しました。医学の世界ではものさしも統一されないまま暗黒の中世が続くのでしょうか?

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