2012年6月9日土曜日

「お大事に」とは言わない看護介入をめざして

当院で主に診ている患者さんは狭心症や心筋梗塞と言った冠動脈疾患の方です。この冠動脈疾患の背景には糖尿病が存在することが多く、当院の冠動脈疾患患者さんのざっと30%は糖尿病です。糖尿病の方のコントロールには経口剤やインスリンがありますが、基本は食事療法です。管理栄養士からの栄養指導も行いますが、なかなかうまくいかないことも少なくありません。

コントロールの良好な人の場合、A1Cのチェックは2-3回の受診に1度としていますが、コントロールの悪い人の場合は、毎回の受診時にA1Cをチェックしています。この時に余程、前回と比べて悪化している時にはさすがに無理ですが、少しでも良くなっている場合には、図のように「大変よくできました」とハンコを押して、結果をお渡しします。すると、多くの場合、次回には更にA1Cは改善してこられます。「口先介入」です。財務相や首相が「現状の円高を好ましいとは思っていない」などというと介入があるのではないかと考えたマーケットが反応し、円安に一時的にふれるという「口先介入」と同じです。これもあまりにも口先だけだと、また嘘だと思われて口先介入も効果は出ません。DMの患者さんに対する口先介入も同じです。口先介入と、薬を増量するというような実際の介入を織り交ぜながら、DMを改善する方向に介入するのです。

看護の分野の言葉で私が最も好きな言葉は「看護介入」です。かつては医師の診療の補助のみを業務にしていた看護師も、自らが主体的に介入することで患者の予後を改善するのに寄与しようという考え方です。私が「きちんと食事療法をしろ」とか「今度は良くなっていますよ」と言うよりも、看護師が「今度は良い結果で先生を見返しましょうね」と話した方が効果が大きいことも少なくありません。繰り返す心不全患者の塩分制限や水分制限、体重管理なども同様に看護師が看護の視点から介入した方が良い結果につながることが多いように思います。

最近、手が空いた時に外来の診察についてくれる看護師さんに、患者さんが診察を終わって帰る際に「お大事に」とはなるべく言うなと繰り返し話しています。一人一人の患者さんの診療の中で、看護師として関わるべきポイントを意識して、介入すべき点があれば介入してくれよと言う意味とほぼ同義です。この趣旨を理解してくれる看護師は、「努力したら良い結果になりましたね、今度も褒められましょうね」などと口先ですが介入してくれます。そうするとDMのコントロールが改善したり、心不全の再入院が減少したりします。一方、長年にわたって何も考えずに「お大事に」で済ませてきた看護師さんは急に元気がなくなって小さな声で「お大事に」と言ったり、黙っていたりです。外来診療中の短い時間の中で、その患者さんに対する看護師としての役割を意識し、そしてその役割の理解から介入という外向きの行動に移ることに慣れていないからだと理解しています。役割を理解し、行動に移すという行為は、経験の少ない若い看護師でもできる人はできますし、ベテランであってもできない看護師さんもいます。その様子を見ていると、診療の瞬間・瞬間で、有意義に時間を使っている看護師さんか、無為に時間を使っている看護師さんかが分かります。もちろん、こんなことで看護師さんを評価したいわけではなく、有意義に時間を使って成長してくれることに繋がればと願っているだけですし、その成長が患者さんの予後に寄与すればと願っているだけです。

「お大事に」という一言を言うなと縛られるだけで、無為に時間を費やしてきた看護師さんは苦しくなります。その苦しさを乗り越えた先に自分の成長と患者さんの改善された予後があるのであれば、乗り越えるべき苦しさと思っています。これからも看護師さんに介入する「看護介入」と患者さんに介入する「看護介入」を意識して、より良い看護に支えられた鹿屋ハートセンターの診療を成長させたいものです。

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